テコンドーとは

テコンドーの歴史

テコンドーは1955年4月に、当時韓国の陸軍少将であった故・崔泓熙(チェ・ホンヒ)氏[1918年11月9日〜2002年6月15日]によって唐手(空手)や朝鮮古武道(テッキョン)を参考にしつつ、研究開発され体系化された近代武道です。

テコンドーは、東洋の倫理道徳を精神的根幹とし、足技1200種、手技2000種、計3200種の技からなる武道です。攻撃と防御の方法には軍隊戦術を採択し、現代科学の原理をもって人体の持ち得る最大のパワーを出せるように体系化されています。
テコンドーはその後も今日に至るまで研究と開発が続けられ、現在テコンドーを実践する多くの人々によって世界130ヶ国以上に広められています。現在の修練者人口は、空手が2000万人であるのに対し、テコンドーは3800万人と言われており、世界で最もポピュラーな武道となっています。

故・崔泓熙(チェ・ホンヒ)氏

テコンドーの精神

テコンドーは武道を源とし、近代スポーツの道を歩んでいます。相手を傷つけたり、倒すだけのものではなく、ルールの下で技を競い合う事を理念としています。
また、テコンドーの精神として下記の5つを掲げており、その順序にもそれぞれ意味があります。

礼儀[れいぎ]目上の人を敬い、人の行なう禮(れい)の道

テコンドーは、礼に始まり、礼に終わる武道です。「礼儀」とは人として備えるべき基本として位置づけられ、一番最初に挙げられています。

廉恥[れんち]心が清らかで、恥を知る心のあること

礼儀ある人間は常に客観的に自分自身を見つめ、潔く恥じる謙虚な心を兼ね備えます。
謙虚な心を身に付ける事こそが正しい道を進むための重要な精神です。

忍耐[にんたい]耐え忍ぶこと。苦しくてもじっと我慢できる強い精神

目標に向かってそれを乗り越えようとする時には、苦難の道が待ち構えています。
逃げ出したくなる試練にもじっと耐え忍び、一歩ずつ進んでいくことが一番の近道です。

克己[こっき]己に勝つこと。自分の欲望に打ち勝つ精神

最大の敵は自分自身の中にいます。
自己を制し、打ち克つことで自分自身を大きく成長させます。

百折不屈[ひゃくせつふくつ]幾度挫折しそうになっても決して屈しない精神

本当の強さとは、決して倒れないことではなく、倒れても再び立ち上がれることです。忍耐・克己を何度も経験し、決してあきらめない強い精神を身につけます。

現在テコンドーが世界中で愛されているのは、テコンドーが教育的な武道精神を根源に持ったスポーツとして支持されたからに他ならないのです。
テコンドーでは、個々のレベルに対応した級、段制度が設けられています。級は10〜1級まで、段は1〜9段まであり、テコンドーの最高段位は9段です。
昇級・昇段審査に当たっては、技術だけでなく、人格の発達、克己心や粘り強さも評価の対象となります。

テコンドーでは昇級する毎に帯の色が変化していきます。白・黄・緑・青・赤の順番で進み、有段者で黒帯を締めることになります。黒帯以降は段の数だけ帯に線が入ります。各帯の色は下記の意味を表しています。

白:無の状態
黄:黄色い大地の誕生
緑:種が蒔かれ土から発育した芽
青:成長する芽が目指す空
赤:高レベルに達した稽古生に精神面を警告
黒:テコンドーに熟達したことを意味し、暗闇でもその力を発揮できる

トゥル(型)

トゥルとはテコンドーにおける型のことを指す名称で各級、段において習得すべき課題となるトゥルが規定されており、全部で24種類存在します。
トゥルは技術、理論、精神を効率的に習得できるように組み立てられた体系であり、攻撃から追撃へ、攻撃から防御へ、防御から反撃へ、防御から防御へ、といった連続動作を一連の流れとして活用できるように実戦を意識して編纂されたものです。

また、テコンドーで技として規定される動作は使用部位、スタンス、攻撃箇所の組み合わせにより3200種類にも及ぶため、これを一つ一つの個々に習得するよりも複数の動作を一貫した動きの中でまとめて習得できるというメリットもあります。
特にトゥルの習得において重要な事は各トゥルの一つ一つの攻防動作の意味を意識し、常に相手が居ると仮想して正確な動作をリズム良く行うという点です。

トゥルの名称には韓国の歴史上で欠かせない忠国の志士として高名な人物の名前を中心に日付、決意のスローガンといったものが制定されています。トゥルを実践する上で彼らの目指したもの、彼らが生涯を通して貫こうとした意思、そして行った行為、決意等を知り、認識することでテコンドーがトゥルを通して伝えようとしている精神を学んで頂けると幸いです。

トゥル練習で守るべき事項

  • 開始地点に戻り終了しなければならない。
  • 常に正確な姿勢と目標に対し、身体の方向を適切に維持しなければならない。
  • 全ての動作は力を入れるところ、入れないところを適切に行わなければならない。
  • 全ての動作は柔軟でリズミカルに行ない、どのような場合でも力みがあってはならない。
  • 全ての動作は百科事典で示すように、速い動作、緩やかな動作、連続動作などをおこなうことによって、「舞踊」となることを防ぎ、各動作の目的を果たすことができる。
  • 一つのトゥルを完全に習得する前に、次のトゥルを学んではならない。
  • 各動作の目的と方法を確実に理解しなければならない。
  • 各動作ごとに敵を想定し練習をしなければならない。
  • 攻撃や防御の練習は一方の手や足に偏ってはならない。
名称 読み 動作数 演武線 名称の由来
天地 チョンジ
(chon-ji)
19 天地の演舞線 東洋において「天地」は、世界の創造あるいは人類の歴史の始まりと解釈されているため、最初に学ぶ型に名づけられた。演武線(+)を2回転する動作で、一回転目は天を表し、二回転目は地を各々意味している。
檀君 タングン
(dan-gun)
21 檀君の演舞線 紀元前2333年に朝鮮を建国したと伝説上いわれている聖祖・檀君(タングン)の名にちなんだ。
島山 トサン
(do-san)
24 島山の演舞線 植民地支配の時代、その全生涯を教育の向上と独立運動に捧げた、安昌浩(アンチャンホ)の雅号。
元曉 ウォニョ
(won-hyo)
28 元曉の演舞線 西暦686年新羅の王朝に仏教を初めて伝えた高僧、元曉(ウォニョ)大師の名にちなんだ。
栗谷
(yul-gok)
38 栗谷の演舞線 李退渓(イ・トェゲ)とともに朝鮮儒学の双璧を成す大儒学者、李珥(イ・イ)のこと。東方の聖人とも呼ばれた彼の字(あざな)である。演武線の「士」は学者を表している。38の動作は、彼の生まれた地域の緯度を意味する。
重根 チュングン
(joong-gun)
32 重根の演舞線 祖国独立のために闘った安重根(アン・チュングン)の名にちなんだ。動作数32は氏の没した時の年齢を表している。
退渓 トェゲ
(toi-gye)
37 退渓の演舞線 栗谷こと李珥(イ・イ)と並び朝鮮儒学の最高峰である李滉(イ・ファン)の字。退渓は彼を尊敬の念をこめて呼ぶ際の別名である。演武線の「士」は学者を表している。37の動作は彼が生まれた地域の緯度を意味する。
花郎 ファラン
(hwa-rang)
29 花郎の演舞線 7世紀新羅王朝時代の、青年貴族の軍団で当時の朝鮮半島に割拠していた高句麗、百済、新羅の三国を統一する原動力のひとつとなった花朗徒(ファランド)の名にちなんだ。
忠武 チュンム
(choong-moo)
30 忠武の演舞線 文禄・慶長の役で戦った李朝の海軍提督、李舜臣(イ・スンシン)将軍の諡号(しごう)。このトゥルが左手の攻撃で終わっているのは、自らの能力100%発揮出きず人生を閉じた事を表している。
廣開 ンゲ
(kwang-gae)
39 廣開の演舞線 高句麗王朝19代目の最強の王、廣開土王(クワンゲトワン)の名にちなんだ。演武線の「土」は隣国に奪われた領土を奪還して領土拡張を果たした事を表し、動作数39は王位に付いた西暦391年の上2桁を表している。
圃隠 ポウン
(po-eun)
36 圃隠の演舞線 高麗末期の有名な詩人である文臣、鄭夢周(チョン・モンジュ)の雅号。演武線の「−」は氏の国への一途な忠節を表している。
階伯 ケベ
(ge-baek)
44 階伯の演舞線 百済王朝末期の悲劇の将軍、階伯(ケベ:660年没)の名にちなんだ。演武線「|」は厳格な軍規を表している。
義菴 ウア
(eui-am)
45 義菴の演舞線 1919年の三一独立運動のリーダー、孫秉煕(ソン・ビョンフィ)の雅号。演武線「|」は 民族繁栄の為に一身を捧げた氏の百折不屈の精神を表している。45の動作は1905年に東学を天道教に改名宣布した時の先生の年令を表している。
忠壮 チュンジャン
(choong-jang)
52 忠壮の演舞線 14世紀翼虎将軍として勇名を轟かせながらも謀略により27歳で非運を遂げた義兵隊長、金徳齢(キム・ドンリョン)の雅号。左手で終わる動作は志半ばで処刑された無念を表した。
高堂 コダン
(ko-dang)
45 高堂の演舞線 1919年の三一独立運動に参加後、民族実力養成運動の先頭に立ち教育言論文化事業の発展に尽力しだ晩植(チョ・マンシク)の雅号。
三一 サミ
(sam-il)
33 三一の演舞線 1919年3月1日に、ソウル・パゴダ公園での独立宣言をきっかけに全国を揺るがせた三一独立運動の歴史的な日付を示している。33の動作数は独立宣言文書に署名した33人の民族代表を表している。
庚信 ユシン
(yoo-sin)
68 庚信の演舞線 高句麗、百済、新羅の三国時代に終止符を打った新羅の大将軍、金庚信(キム・ユシン)将軍の名にちなんだ。動作数68は朝鮮半島統一を果たした西暦668年の下二桁を表している。準備姿勢において刀を右手で抜く所を左手で抜いたことは外部勢力と結びついたことによって、同族に不利な戦争をしたことを意味する。
崔瑩 チェヨン
(choi-yong)
46 崔瑩の演舞線 高麗王朝末期の武人政治家、チェ・ヨン将軍の名にちなんだ。当時、彼の忠誠心と愛国心、謙虚な姿勢は国民の支持を受けたが、部下(イ・ソンゲ)のクーデターにより処刑された。
淵蓋 ヨンゲ
(yon-gae)
49 淵蓋の演舞線 高句麗末期の勇猛な将軍、淵蓋蘇文(ヨンゲ・ソムン)の名にちなんだ。動作数49は大陸に君臨していた唐の太宗が率いる30万の侵入軍を撃退した西暦649年の下二桁を表している。
乙支
(ul-ji)
42 乙支の演舞線 612年に隋の煬帝に率いられた約百万の隋軍の侵入を撃退し、高句麗の防衛を果たした乙支文徳(ウチ・ムンド)将軍の名。 演武線は氏の名前の「乙」の字のイメージである。42の動作はこの型が完成した当時の創始者の年齢。
文武 ムンム
(moon-moo)
61 文武の演舞線 高句麗、百済、新羅の三国を統合した新羅第13代目の王である文武(ムンム)を称えて名づけられた。動作数61は王位に即位した西暦661年の下二桁を表している。
西山 ソサン
(so-san)
72 西山の演舞線 文禄の役に抗して僧侶義兵軍を組織した、李王朝時代の高僧、崔玄應(チェ・ヒョヌン)の雅号。動作数72は氏が僧兵を組織した時の年齢を表している。
世宗 セジョン
(se-jong)
24 世宗の演舞線 1442年世界初の測雨器、1443年に訓民正音を編み出すなど、史上最も偉大な王として有名な、世宗(セジョン)の名にちなんだ。演武線(王)は王である事を表す。
統一 トンイル
(tong-il)
56 統一の演舞線 1945年以来分断されている朝鮮半島の統一の決意をあらわしている。演武線の「|」は両国の国民が分けられる謂れ無き一つの民族である事を表している。

テコンドーの華麗なテクニック

アプチャ・プシギ(前蹴り)
アプチャ・プシギ(前蹴り)
「アプチャ」とは前に蹴る、「プシギ」は砕くを意味します。前にいる相手を攻撃するのに使われます。膝をたたんで突き刺すように蹴ります。部位はアプクンチ(上足底)で蹴ります。
ヨプチャ・チルギ(横蹴り)
ヨプチャ・チルギ(横蹴り
「ヨプチャ」とは、横に蹴る、「チルギ」とは突きを意味します。引き上げてたたんだ足を横方向に突き込む様に蹴ります。テコンドーでは非常に良く使われる蹴りで、攻撃、牽制、防御と幅広く応用できる強力な蹴りです。
トルリョ・チャギ(廻し蹴り)
トルリョ・チャギ(廻し蹴り)
「トルリョ」とは廻して、を意味します。ひざをたたんで、軸足と腰を回転させながら蹴ります。蹴った後は足を、ひざの高さを変えずに素早くたたみます。マッソギ(組手)でも多く使われる非常にポピュラーな蹴りです。
ティオ・トラ・ヨプチャ・チルギ(跳び180°回転横蹴り)
ティオ・トラ・ヨプチャ・チルギ(跳び180°回転横蹴り)
「トラ」は回って、「ヨプチャ・チルギ」は横蹴りを意味します。この蹴り技は、回転しながら行うヨプチャ・チルギで、背中から廻る回転力を加えた強力な蹴り技です。相手に向かってまっすぐに突き込む様に蹴ります。中段、上段が目標になります。
パンデ・トルリョ・チャギ(後ろ廻し蹴り)
パンデ・トルリョ・チャギ(後ろ廻し蹴り)
「パンデ」は反対、「トルリョ・チャギ」とは廻し蹴りを意味します。「トルリョ・チャギ」の応用技で、背中側から廻して蹴ります。空手等の蹴りと異なり回転時に一度引き上げてたたんだ足を振り出す様に蹴ります。
ネリョ・チャギ(かかと落とし)
ネリョ・チャギ(かかと落とし)
「ネリョ」とは落としてという意味です。テコンドーでの代名詞とも言われる有名な蹴り技で、別名「かかと落とし」と言われています。足を頭上に高く上げてから踏み付ける様にして相手の脳天、顔面、鎖骨、胸などに攻撃を与えます。
コロ・チャギ(掛け蹴り)
コロ・チャギ(掛け蹴り)
「コロ」は引っ掛けるという意味です。これは、たたんだ足を体の内側から外側へ伸ばしながら、膝から下のスナップを利かせ、ティッチュッ(踵)で引っ掛ける様に行う蹴りです。強い脚力とバランスが要求される蹴りです。
ピトゥロ・チャギ(ひねり蹴り)
ピトゥロ・チャギ(ひねり蹴り)
「ピトゥロ」はひねるを意味し、真横、または横後方にある目標に対し使用する蹴りです。並んで相手がいるとき攻撃するのに有効で、股関節の柔軟性が要求されます。
ティオ・アプチャ・プシギ(跳び前蹴り)
ティオ・アプチャ・プシギ(跳び前蹴り)
「ティオ」は跳んでの意味で、跳びながらのアプチャ・プシギ(前蹴り)を意味します。正面の相手への中段、上段が目標になります。
ティオ・トルリョ・チャギ(跳び廻し蹴り)
ティオ・トルリョ・チャギ(跳び廻し蹴り)
正面にある高い位置の側面に目標を狙うのに使われます。蹴り足をしっかりと引き、上足底もしくは足の甲が相手の急所に入るように蹴ります。中段、上段が目標になります。